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望郷(ややネタバレあり)

2013-02-27 Wed 00:00
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 ドラマ化された「夜行観覧車」(TBS系)が好評な、湊かなえの最新作「望郷」(文藝春秋)を読みました。

 ここでも何度か述べましたが、やはり湊かなえには長編ものが合っているように感じます。あちこちに張り巡らされた伏線が、クライマックス付近で爆竹のごとく連鎖的に爆発した時の爽快感…あれはプロローグからクライマックスまでのページ数が多ければ多いほど効果も大きいと思います。

 さて今回読んだ「望郷」は、私としては残念ながら「サファイア」以来の短編集。…いえ、それでも十分に面白いのですが、最初に書店で手にした時はちょっとガッカリでした。

 しかし本書は1話40ページ強の短編集ながら、各話とも瀬戸内海に浮かぶ白綱島という架空の島が舞台。そして各話の主人公…島に残った者、島を捨てるように出ていった者…いずれの主人公もこの島では精神的に満たされない幼少時代を送っています。彼らが大人になり、結婚して子を持ち、何かのきっかけで故郷(白綱島)で過ごした過去と向き合う時、彼らは一体何を想うのか?それは望郷の念なのか?…そんなテーマは各話共通していました。

 受け取り方によっては「故郷への想い」をテーマにした長編小説とも取れますね。


「みかんの花」
 人口減少により本土の市と合併することとなった、これまで一島一市だった白綱島市。その“白綱市閉会式”の日に25年ぶりに姿を現した主人公の姉。彼女は25年前、島を訪れた放浪者と駆け落ちして東京へ去った後、売れっ子作家となったが、今まで一切連絡を寄越さなかった。島を捨てたはずの姉はなぜ突然島に戻り、家族の前に現れたのか…?


 最初は島に残り、認知症の母親を世話する妹の気持ちにシンクロして読むので、この姉の図々しい振る舞いや発言には純粋にムカつきまくりです(笑) しかし、ラストのどんでん返しを読んだ日にゃぁ…切ない…(涙) 故郷を、家族を守る方法にこんな形があるなんて、悲し過ぎますよ~…。

 本書の中で唯一、ミステリー要素を含む作品でした。


「海の星」
 幼い頃に父が突然失踪して以来、ずっと母子家庭で育った経験を持つ主人公。彼のもとに、高校時代の同級生から一通のハガキが届く。送り主は、かつて毎日大量の魚を持って、下心丸出しで母目当てに父のいない我が家を訪れていた漁師のオジサンの一人娘だった。
 「父のことでどうしても伝えたいことがある」という一文を見た主人公は、失踪した父のことで何か情報が得られることを期待し、久々に生まれ育った白綱島を訪れるが…。


 このお話、私的には本書の中で一番好きです。クライマックス付近を読んだ時、思わずまとまったページを鷲掴みにして前の方に戻り、再び内容を確認したくてたまらなくなる…という、あの湊かなえものによく見られる欲求が生まれます(笑)

 いやぁ、私好みのイイお話でした…。


「夢の国」
 30年前の白綱島。この長閑だが娯楽に乏しい町で生まれ育った子供たちにとって、当時東京にオープンした“東京ドリームランド”は誰もが行ってみたいと夢見る憧れのスポットであった。
 しかし主人公の家は規律に厳しい祖母が実権を握る土地の名家。両親ともどもレジャーはおろか、島を出ることすら決して許されなかった。
 そんな環境で育った主人公であったが、大学時代に祖母が病死し、若くして妊娠・結婚して家庭を持つことに。彼ら夫婦は一人娘を連れて遂に東京ドリームランドを訪れる。彼女の目に“夢の国”はどう映るのか…?


 明らかに東京ディズニーランドをイメージした遊園地(笑)

 最近私もよく感じることですが、人生長く生きていると、ちょっとしたことで忘れていたはずの過去のわだかまりが溶けたり、長年引きずっていたこと同士の辻褄が合い、テトリスの4列消しのごとくモヤモヤが綺麗に解消されたりします。そんな物語(?)ですね…。


「雲の糸」
 忌まわしき思い出だらけの白綱島を捨て、人気若手ミュージシャンとなった主人公の携帯に、かつて主人公一家に酷い仕打ちをしてきたある同級生から一本の電話が掛かってきた。なぜか“親友”面をした彼の用件は、地元の名士である自分たち一族の会社の創立50周年パーティーにゲストとして来い、というもの。彼らとは関わりたくない主人公は何とか断ろうとするが、島に残ったままの母や姉の立場を考え、渋々帰郷することに。
 帰郷するやいなやパーティーだけでなく、親戚や母親にまで当然のように有名人として奉仕させられ、利用される主人公。ウンザリする彼だが、その後崖から転落し重体となって発見される…。


 これは本作中最もムカつくお話でしたね。よく有名人になったり、オリンピックに出場したりすると一気に親戚が増える、と言われますが、主人公を通してそんなことを疑似体験した気分です。

 ここまで読んで何となく気づきますが、本作は収録された6話の中で、小さな島の町の人々を通じて、人付き合い、協調性、コミュニケーション、故郷への想い、親の愛、成長すること…色々なことを表現しようと試みているように感じます。


「石の十字架」
 登校拒否の娘のために故郷の白綱島で静かに暮らす主人公と娘。彼女らのの自宅を、ある日大規模な台風が襲う。
 浸水した自宅に娘ともども閉じこめられ切羽詰まった主人公は、石鹸を削って作った十字架に願いを込める。そこには、幼い頃の親友との思い出が…。


 子供って意外と本当の友達を見極められていないのかも知れません。イケてるグループだから仲間に入りたいとか、親が金持ちだから高い玩具で遊べるとか、可愛い(カッコいい)から一緒にいれば自分もモテそうだとか、アイツはダサいから一緒に遊んだら恥ずかしいとか、無意識のうちに損得勘定するものです。

 昨今の虐め問題もそうですが、(一部の)子供って何でこうも残酷になれるのでしょうね…?


「光の航路」
 主人公は虐め問題とモンスターペアレンツへの対処に悩む教師。投げやり気味になっていたある日、彼の自宅は何者かに放火され、彼は入院することに。そこへ20年前に病死した父の教え子だという男が見舞いにやってきた。
 幼い頃、楽しみにしていた貨物船の進水式見物を一方的にキャンセルし、代わりに見知らぬ少年と二人で見物していた父。喧嘩の原因も聴かずに自分を殴った理不尽な父…ずっと主人公の心に引っ掛かっていたものが、この男との対話により溶解して…。


 これもイイお話でした。
 
 私は人間の人生って例えるなら3次元空間で伸び続ける1本の線だと思っています。この線同士がクロスした状態が、自分と他の誰かの人生が交わっている時間。そしてクロスした線同士はいずれ分離していく…。だからなるべく同じ方向に、なるべく同じ角度で伸びる線同士は、一度クロスすると多くの時間をシェア出来るのだと思っています。

 この物語を読むと、もう一生交わることのないはずの線とも、それと関わった全く別の線と交わることで、記憶をシェア出来るのかも知れないなぁ…そう思います。かなり抽象的で分かり辛い表現ですが(笑)


 ということで、私的には湊かなえものとしては失礼ながらランキング上位に食い込む作品ではないかな?と感じますが、とても面白かったし、読んで良かったと思いました。虐め問題に触れてる話が多いのも何となくタイムリーな気がします。

 こんな作品を読むと「…次の週末あたり、久々に帰郷するか!」という気持ちが湧いて当然ですが、残念ながら生まれも育ちも(ほぼ)東京な私(笑) こんな時には遠く離れた故郷を持つ人が羨ましいです。


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(2013/01/30)
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2014-08-22 Fri 12:56 粋な提案
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