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《誹謗・中傷、暴露系ネタ、アラシ厳禁》
某単行本発売報道に見た出版破滅へのカウントダウン

2013-04-22 Mon 06:00
 日本が世界に誇る人気作家、村上春樹待望の新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(文藝春秋)が発売された、というニュースを先日テレビで拝見しました。その後発行部数100万部を突破したようですね。

 ニュースで映し出されたのは、発売日午前零時前後の書店前の様子。いち早く入手しようと書店前で今か今かと待ち侘びるファンたち。どこからともなくカウントダウンが始まり、遂に発売解禁。異例の臨時出勤(残業?)に複雑な心境であろう店員さんから代金と引き替えに手渡された本を、早速路上で読み始める購入者…。

 出版不況が嘆かれて久しい出版業界では希に見る明るいニュースだと思いました。しかし…読書が大好きな方、特定の作家が大好きな方にお聞きしたいのですが、この光景って何かがヘンじゃないでしょうか?

 誰が仕掛けたのか分かりませんが、こんな“カウントダウンイベント”そのものが、落ち込んだ出版業界を盛り上げるべく仕組まれたプロモーションなのでしょう。事実上のCMみたいなものです。ニュースでも取り上げられるので当該書籍の宣伝はもちろん、「まだまだ紙の本も死んでないよ」という、本離れ世代(層)へのアピールにもなり万々歳なのだと思います。

 私も読書大好き人間だし、好きな作家の新作を1日も早く読みたくて堪らない、というファンの心理は分かります。また、こんな滅多にないチャンスなのだから、深夜だろうが早朝だろうが店を開けて一冊でも多く商品を売ってやろうという書店の逞しい商魂も理解出来ます。何らケチをつけようとは思いません。

 でも私はこのニュース映像を見て、こんなふうに深夜に新作を買って読む人って本当に本が好きな人なのかな?村上春樹ファンなのかな?というモヤモヤも感じます。まるで普段ワインなんて全く飲まない人が、なぜか毎年ボジョレー・ヌーボーの解禁日には敏感に反応、解禁と同時に買い求めて騒ぐ…そんな現象とダブらなくもないような…。

 なぜ私が、このニュースを否定的に見てしまうのか?ちょっと考えてみました。

 まず私は、自分自身に対し「好きな作家の新作を発売日、それも深夜に欲しいか?」と問い掛けました。答えは即答で「NO」でした。

 今回とよく似た現象は、人気RPGシリーズのゲームソフトやiPhone、iPadの新機種、新バージョンのOSソフトの発売日などにもよく見られます。

 しかしこれら商品の性質は、書籍コンテンツのそれとはちょっと違います。RPGなら

「友達よりも早くクリアして、攻略法をレクチャーすることでクラスのヒーローになりたい」
「早くクリアしないと専門誌(サイト)に攻略法が掲載されてしまう」

という購入動機があるでしょう。iPhoneやOSソフトについても

「すぐにでも快適なネット環境が欲しい」
「明日からでも作業効率を上げたい」

といった実質的な動機から求められるケースがほとんどだと想像します。

 では、書籍コンテンツはどうでしょう?私は基本的に本の楽しみ方って千差万別だと思います。単純に書かれたことを脳で租借・記憶してハイ、おしまい!が読書ではないんですよね。それ以前に、

紙の本で買うか?電子データをダウンロードするか?
新品を買うか?古本を買うか?
書店で探すか?ネット通販サイトで探すか?

読む前から既に様々な楽しみ方が存在します。

 例えば私の楽しみ方、こだわりは…まず単行本は可能な限り初刷ではなく、2刷の発売を待ちます。なぜなら出版社は大抵の場合、どんな本でも初刷は突貫工事で作るので、誤字脱字だらけというのが業界の一般認識。「初刷」という響きにプレミア感を覚える人も多いと思いますが、人生レベルで身近に置いておきたい、何度か読み返すつもりで買う大切な本なら、初刷はオススメしません。

 また、私はどんなに楽しみにしていた本でも、購入から数ヶ月間は読まずに寝かすことが多いです。発売直後に読破してしまうのは、次回作発売まで待たなければならない時間が最も長く、とても悲しいですから(笑) 寝かせている間に内容を色々想像したり、妄想を膨らませて期待度を上げておくのです。あくまでも私独自の楽しみ方、ですけどね。

 そしてようやく辿り着いた中身…同じ文章、同じ物語でも、読む人の置かれた環境、これまでの人生、独自の価値観によって感じることはバラバラ。面白いと感じるポイントも、感動するポイントも、一冊の本から学ぶことも人それぞれ。何に価値を感じたか?も異なります。よって、必ずしも他人よりも先に読み終えなければならない、なんてことないと思うんですよ。内容をベラベラ喋りながら歩き回る輩も滅多にいませんし(笑)

 また、私の場合はどんなに好きな作家の作品でも、必ずしも内容(ジャンル)問わず全て買う(読む)とは限りません。

 例えば、私が好きな作家のひとりに貴志祐介がいます。私の中で貴志祐介はというと、初期のホラー系や、今世紀最高傑作と言っても過言ではない「新世界より」、そして彼としては実験的な異色作「悪の教典」や「ダークゾーン」を書いた作家。ある時期から力を割いている(と思われる)密室トリックものは評価していません(上から・笑)。過去に数冊読みましたが、正直「これは違うでしょう!!」というのが私の下した評価(再び上から・笑)。私としては密室トリックものを彼のキャリアとして認めたくないのです(さらに上から・笑)。となると当然、テレビドラマ化され人気を博した「鍵のかかった部屋」も読んでいないわけですが、それが私の楽しみ方ゆえこれでよいのです。

 何が言いたいのかというと、読者は各々が設けた基準やルールに則り本を買い、楽しみ、評価しているということ。例え同じ作家のファン同士、同じ本を購入した消費者同士といえど、コンテンツへの接し方は、ゲームやソフトウェアへのそれとはかなり異なると思います。だから先のニュース映像を見た私は、あのような単なるお祭り騒ぎを、あたかも

「これが現在のベストセラー作品が売れる形」
「これが熱心なファンの買い求め方」

と決めつけたような、関心のない視聴者に勘違いを促すような報じ方を、極めて気持ち悪く感じたのでしょうね。

 こういったアングルは1、2回であればカンフル剤的効果を発揮するでしょう。しかしやり過ぎは読者から好みの作家、本を探究する楽しみを間接的に奪ってしまうように思います。「とりあえず売れているらしいから、ブームに乗っかって読んでおけばSNSのネタになる」みたいな風潮しか生まれない。どんな名作でも“使い捨て前提の駄菓子のような娯楽”で終わってしまうでしょうね。

 不適切な煽り方は、出版業界を盛り上げるどころか本の価値をどんどん下げて、出版業界滅亡へのカウントダウンに拍車をかけるだけのように思えてなりません…。


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