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山女日記(ネタバレあり)

2014-07-30 Wed 00:00
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 湊かなえ最新作「山女日記」(幻冬舎)を読了しました。

 「湊かなえが山もの?」私的に結びつかない組み合わせでしたが、もともと彼女、学生時代から登山をしていたようです。「山と渓谷」誌に本書についてのインタビュー記事もあったし、取材登山もしたようだし…あ、「花の鎖」で主人公がコマクサを見に八ヶ岳登山するという、臨場感たっぷりのシーンもあったっけ。

 登場人物に共感しつつ読み進めると、面白くてどんどんはまりました。やはり登山する人が書いた物語だからでしょうね。


「妙高山」
 丸福デパート勤務のOL・江藤律子は、自社のアウトドアフェアで一目惚れしたダナーの登山靴を購入。先輩社員・牧野しのぶの勧めもあり、これを履いて初めての登山を試みる。
 当初同期女子社員三人で臨む予定だった登山は、まとめ役の梅本舞子が体調不良でキャンセルしたため、仕方なく残りの二人で決行。しかし律子はルーズな性格の芝田由美が嫌い。しかも由美が上司と不倫していることを知り、ますます嫌悪感を抱く。
 また、律子は結婚を控えているが、婚約者から義父母との同居や義祖母の介護をチラつかされ、結婚そのものに躊躇していた。登山すれば自分は何か変わるのか?もしそうなら、それに結論を委ねてみようと考え、律子は妙高山に登る。


「火打山」
 「バブルを引きずっている」と後輩から揶揄される、老人ホーム事務員・美津子。若い頃はそれなりにモテたが、当時の価値観を捨て切れずに気づけば独身のまま40歳を超えてしまった。
 恥も見栄も捨て、相手にも多くは望まないつもりで参加したお見合いイベントで、美津子は神崎という男とカップル成立、付き合い始める。神崎は登山サークルに所属するほどの山好きで、美津子の誕生日にもダナーの登山靴をプレゼント。彼女を“初めての”登山に誘う。美津子を必死にもてなそうとする神崎だが、美津子は自分の心を縛り続ける、ある過去の出来事を思い出していた。


「槍ヶ岳」
 幼い頃、父の影響で始めた登山を、30歳を超えた今でも続けている牧野しのぶ。彼女は過去に二度槍ヶ岳登頂を試みたが、頂上にはまだ到達出来ていない。女子大の山岳サークルで登った時は部員の一人が、就職して父親と登った時は父が怪我したため、下山を優先せざるを得なかったからだ。それ以来、しのぶはそんな面倒臭い団体行動を嫌い、誰にも気を遣うことなく自分のペースで動ける単独登山を好むようになる。
 今回休暇を取り三度めの槍ヶ岳登頂を目指すしのぶだったが、同じルートで山頂を目指すシニア男女に出会ってしまい、流れから不本意にも三人一緒に行動することに。歩行ペースが遅く、時に頑固かつ理不尽な態度を取る二人にイライラさせられるが、二人に自分の両親を重ね合わせ、これまでの態度を省みる。


「利尻山」
 医者と結婚し娘を儲けた姉。世間の常識を重視し、自分基準で妹を見下す姉。そんな姉から誘われた利尻山登山ツアーだったが、妹・宮川希美はついOKしてしまった。
 希美は翻訳家だが仕事は少なく、実家の農作業を手伝いながら年金暮らしの父親に依存して暮らしている。自分はそんな生き方もよいと考えるが、父や姉、義兄はいつも上から目線で彼女を否定する。希美はそんな他者の価値観を一切認めない家族を疎ましく思っていた。
 悪天候の中、利尻山登山を開始した姉妹。なぜ姉はわざわざ自分を誘ったのか?なぜ悪天候にもかかわらず登るのか?きっと登山にかこつけて人生の厳しさを語り、自分の生き方を否定するために違いない。そう考える希美だが、姉の口からは意外な言葉が…。


「白馬岳」
 夫から離婚を突きつけられた「利尻山」の“姉”が小5の娘・七花と妹・希美とともに白馬岳にやってきた。順調なペースで雪渓を歩く希美と七花の後ろを歩きながら、姉はこれまでの人生を回顧する。
 山頂に近づくと強風に見舞われた一行。姉は娘を心配し、お互いの体をロープで結び必死に守るが、体力を使い果たして動けなくなってしまう。目に涙を浮かべながら母親の力になろうとする娘の優しい気持ちを嬉しく思いながらも、彼女はつい他者に依存しない自分を演じ、拒絶する。そんな自分の弱点に気づいた姉は、想定外の離婚で頭がいっぱいになっている間に、娘が頼もしく成長していたことを実感する。


「金時山」
 丸福デパート勤務の同期女子社員・律子、由美、自分の三人で「妙高山」に登るはずが、当日熱を出しキャンセルしてしまった舞子。自分は三人の“繋ぎ役”だったはずなのに、妙高山登山以降、仲が悪かった律子と由美の間に妙な絆が生まれていることを感じ、疎外感を覚える。
 そんな中、舞子は貧乏劇団員の恋人・大輔と初めての登山へ。彼女は学生時代、怪我で引退するまでバレーボール一筋で日本一を目指してきた。登山するなら当然日本一の富士山に登りたいが、大輔はそれを却下。代わりに地元・神奈川の、ある山に舞子を連れて行く。しかしそれは日本一からは程遠い山だった。


「トンガリロ」
 「利尻山」の希美の友達で、山ガールに大人気の帽子を作る職人・立花柚月。彼女は15年前、旅行会社勤務時代に交際していた吉田とともにニュージーランドで最高のトレッキングを楽しんだ。
 その後、仕事面では帽子職人として成功したが、恋愛面では価値観の違いから吉田と別れてしまう。彼との最高に楽しかった二人旅の思い出を未だに引きずる柚月は、それを綺麗さっぱり忘れるために同じニュージーランドのトンガリロ・クロッシングを歩くトレッキングツアーに参加し、新婚旅行中の神崎夫妻、登山仲間・太田永久子とともに参加した牧野しのぶと出会い、親しくなる。
 吉田との二人旅を回想しながら、当時と変わらぬ美しい絶景や、当時と異なる条件下で眺める新鮮な絶景に改めて感動した柚月は、仲間と楽しい時間を過ごし、自分が作った帽子を愛してくれる人に直に出会ったことで、改めて自分の仕事が多くの人を喜ばせていることを実感。ようやく目の前に広がる新しい人生の風景に目を向ける。


 まず感じたのは、著者と私の山に対する思いが結構似ているのでは?ということです。「告白」以降性別を超えて登場人物に共感することの多い湊かなえものですが、今回は趣味の登山がテーマなので特にそう感じます。逆に登山未経験者、登山に無関心な人が本書を読んでも、面白さは半分も伝わらないかも知れません。

 人生、家族、仕事、結婚…真面目に向き合い、必死に生きてきたつもりなのに、なぜか自分は浮いている。自分を理解してもらえない。誰もが抱える悩み。山はそんな悩みに対し、必ず小さな答えをくれる。山に登ると、誰もがありのままの自分を素直に受け入れ、成長する…ハラハラドキドキするわけでも、もの凄いドンデン返しがあるわけでもありません。でも読み終えた後には確実に心が洗われ、前を向いて生きるのっていいな…そう考えさせられる一冊でした。

 また、本文中に散りばめられた小さな演出の数々も楽しい。

 全7話の独立した短編集ながら、あるエピソードの主役が他のエピソードに脇役で登場したり、逆に脇役が別のエピソードの主役だったりするので、一冊を通して長編小説のようにも読めてしまう。

 山好きには登山アイテムの描写も嬉しいはず。なぜか何度も登場するダナーのトレッキングシューズは単なる著者の好み?新手のタイアップ?(笑)

 「利尻山」の姉妹の姉は、映画の撮影現場を巡る旅が好きらしく、リュックにカナリアのピンバッジをつけている。その映画、もしかして「北のカナリアたち」(原作が同じく湊かなえ)じゃね?(笑)

 各話の扉ページには、それぞれの物語のポイントとなるアイテムイラストが数点ずつ描かれており、どんな物語なのか想像しながら読み進めるのも楽しいと思います。

 あとは何といっても登山中の食事シーン。私の登山中の食事は基本的にエネルギー補給だけが目的のコンビニ飯。下山後に改めてビールと地のものを楽しむ派です。でもこだわりの食事を持参したり、コーヒーを沸かしだり、高級和菓子を仲間と分けて食べたりといった楽しみ方も魅力的です。和菓子あたりから私も試してみようかな…?

 ところで私、なぜ湊かなえものが好きなのか、最近ちょっと分かったような気がします。彼女の文章って男っぽいからなのか、私が読んでも十分共感出来るんですよね。女性作家特有の長ったらしい感情・状況描写がほとんどなくて読みやすいし。

 とりあえず私も早く登山を再開したくなりました。この暑さでは低山は厳しいですけどね。


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