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《誹謗・中傷、暴露系ネタ、アラシ厳禁》
コストをケチればそれなりに

2017-03-01 Wed 00:00
 ちょっと古い話題で恐縮ですが…

 1月30日発売の、岐阜城など織田信長ゆかりの場所を紹介する「岐阜信長歴史読本」という本に、少なくとも30ヶ所の誤植があったことが判明し、出版元のKADOKAWAが謝罪。社内調査の結果を公表しました。

 私は具体的なミスの内容をニュースサイトで知りましたが、岐阜市にある地名が三重県にあるように表記されている、「ハイグレードホテル」が「グレードホテル」と表記されるなど、プロの仕事とは思えない珍しいミスです。だからこれだけの騒ぎになったのでしょう。

 これほどのミスが編集者のみならず、入稿データを作成した編プロやデザイナー、印刷会社(営業、DTPオペレーター、校閲、検版、印刷校正など)、そして出版社が発注した校正・校閲者ら、誰一人気づくことなく完成品に至ってしまったとは極めてカッコ悪いです。なぜこんなことが起きたのでしょう?

 KADOKAWAが公表した社内調査の結果をまとめると、

■本来2回校正(ゲラチェック)するところ、スケジュールの都合で1回になってしまった

 原稿(データ)を印刷会社に入稿→ゲラ出校→編集(および外注校正。今回は「ぷれす」という会社が校正業務を受託したそうです。以下「ぷれす」)がチェック&赤字入れ→ゲラを印刷会社に戻す…という流れを2回転させ、ミスを限りなくゼロに近づけるつもりが、時間がなく1回転しか回せなかったため、ミスを残してしまった、と言いたいようです。

■ぷれすが入れた赤字を(編集者その他が入れた赤字と併せて)印刷会社に返却用のゲラに漏れなく転記すべきところ、多くの赤字を転記漏れしてしまった

 報道によれば、ぷれすに落ち度はなかったとKADOKAWAは認めています。ただし、このような本を出版する場合、織田信長に詳しい専門家を「監修者」として立てるのが一般的です。他にも入稿データを作ったデザイナー、読み物コンテンツがあればその著者、カメラマン、イラストレーター…多くの人が制作に携わっているため、内容をチェックさせなければならない人がたくさんいます。

 これを短時間で行うために、印刷会社にゲラを複数枚出させ、関係者に配り、同時に校正させます。その結果を責任者である編集者が1枚にまとめます(ミス防止のため印刷会社に戻す赤字入りゲラは原則1枚でなければならない)。ところが、回収したゲラの枚数が多すぎて、全て転記したつもりがぷれすの分を転記し忘れたまま印刷会社に戻してしまった、ということか?

■組織的なチェック体制が甘かった

 校正業務を外注しても、最終的な責任は当然出版社にあります。最終的に編集部内でも複数の編集者がダブルでチェックすべきところ、担当編集者一人のチェックのみで進行させてしまったようです。


 私もかつて印刷会社の立場でこういったトラブルは何度も経験しました。でも正直言ってKADOKAWAの“言い訳”はちょっと苦しい。なぜなら、今回のミスが校正の回数やチェック体制云々で起きたにしては、レベルが低すぎるからです。社内調査の結果も“事故報告書の代表的な定型フォーマット”にしか見えません。一般人は納得しても、関係者はあれでは納得しないでしょうね。

 ではなぜKADOKAWAはミスの原因をもっと具体的に公表しないのか?恐らく仕事のやり方が(結果的に)いい加減だったこと、そして自社利益を優先するあまりコスト削減が行きすぎて、品質保証を蔑ろにしたことがバレて会社の信用を著しく落とすから、だと私は想像します。

 さて、今回の問題は、

1.誤字が誤変換のようだったり、基本的な情報に誤りがあったりとミスが幼稚

2.ぷれすがきっちり赤字を入れたのに、反映されなかった

の2つ。まず1について。

 今回のような、地名や年号など確認が必要な情報の多い本を短期間で作る場合、正式な文章や写真・図版が揃うのを待っているとデザイン(レイアウト)作業が進まず、時間がさらに押すので、とりあえず文章や写真・図版はダミーを使ったり、取材中の不完全な原稿を使ってデザインを先行させることがあります。

 しかしそれではミスを犯すリスクが増すので、印刷会社は嫌がりますが、顧客の要求だし時間もないので渋々受けます。すると後追いで正式な文章を入稿したつもりが一部漏れてしまった、ダミーのまま進行してしまった、時間短縮のつもりでダミー原稿の使えそうな部分を生かしたら実は誤りだった…やはり様々なミスが生じやすくなる。

 また、別々の作業を並行させるということは、複数のデータが存在するということ。さらに何人もの作業者がデータ更新を重ねれば、新旧あらゆるデータがゴッチャになることに。「廃グレードホテル」なんて表記のまま本になってしまったのは、取材時に編集がバーッと打ち込んだ不完全なデータをダミーで使いデザインを確認、それが誰にも気づかれず最後まで残ってしまった、または修正を重ねる際何らかの事情で古いデータを利用したため、この部分が“先祖返り”して、そのまま誰も気づかずに進行してしまった、などと想像できます。

 次に2について。

 ぷれすの言い分は「自分らは校正(誤字脱字、および赤字通り訂正されているかなどチェック)業務を発注され、しっかり行った。しかし本を見たら直っていなかった」でした。それなら、KADOKAWAが公表した通り編集者の転記漏れの可能性があります。

 ですが編集者が転記ミスをしたということは、ぷれす以外からも赤字ゲラを回収していたことになります。それはどこから?何社から?なぜ非公開なのか?

 他にも原因が考えられます。例えば、ぷれすに校正を依頼中に、急遽編集長からレイアウト変更を命じられ、ページごとデータを全面差し替えることになった。本をたくさん売るために少しでも魅力的な誌面作りを、というのはよくあることです。その際、やはり時間がないので校正と並行してデザイナーにもレイアウトを直させる。そのデータには当然ぷれすの赤字はまだ反映されていません。その不完全なデータが何らかのミスや行き違いで印刷会社に渡り、「レイアウト全面差し替え」という指示のもと印刷されてしまった。

編集「えっ?デザイナーさんとぷれすさんで連絡取り合って上手く赤字も反映させてくれたと思ってたのに~!」
デザイナー&ぷれす「…(勝手なこと言うなよ!)」

なんてやり取りもあったのかも。

 もしくは、ぷれすが疑惑を抱いたように、編集者が校閲者を用意していなかった可能性もあります。編集者はぷれすに校閲も含めた校正を発注したつもりでいた。しかしぷれすは校正のみの受注と認識。気づいた時はあとの祭りというわけです。

 ここでひとつ疑問なのが、印刷会社内の校正・校閲体制です。基本的に本に掲載される情報や表記については出版社が責任を負います。印刷会社はあくまでも原稿通りのものを作り、赤字通り訂正するだけ。したがって今回のような本は情報が誤っていては価値がないので、編集者も校閲は念入りに行うはず。

 しかし、そうはいっても間違いだらけの本を作っては意味がないし、後々作り直すことになれば印刷会社の負担も増えます。出版社によっては印刷会社に責任を擦り付けてくることも(←ここ大事・笑)。

 そのため、印刷会社も校正・校閲機能を備えているのが一般的です。だからあのようなミスが残っているのに誰も気づかないとは考え難い。となれば答はひとつ。印刷会社は校正・校閲をしていない。

 その理由は、恐らくKADOKAWAの仕事は印刷会社にとって原価率が滅茶苦茶高いから。ハッキリ言うと赤字です。昔、具体的な数字も聞いたことがありますよ。印刷会社は安価で受注するために条件として「印刷会社は校正・校閲はしない」と取り決めていた可能性がありますね。


 ということでまとめると、今回のミスが起きた原因は、

・時間がないため(納期優先で)ミスが起きるリスクの大きい方法で作業してしまった
・自社の利益最優先でコストをケチったため、ミスに歯止めがかからなかった。品質保証を蔑ろにした
・編集者が多忙でテンパっていたため、業者とのコミュニケーションの疎通が不十分だった。
・ミスか意図的か校閲をしなかった
・その結果見事にミスった

…これでは正直に曝け出すのは無理だろうなぁ…と、勝手に妄想した次第です。ぷれすが早い時期に身の潔白をアピールしたのも、自社のせいにされてはたまらない、という理由からでしょうが、日頃から安いギャラで無理難題押し付けられていたのかも。この際そのうっ憤を晴らしてやろうと思ったのかもしれませんよ?

 今やネットからあらゆる情報が無料で得られる時代ですが、まだまだネット情報の多くは不確実、信用できません。それに対してプロの編集者が責任を持って作った出版社名の入った本の情報は確実、信頼できると信じていたので、今回の件はそれがあからさまに裏切られた格好となってしまいました。本好きにとってはそれがひたすら悲しいです。

 本に限りませんが、やはり時間とコストをかければよいものが作れる。ケチればそれなりのものしか作れない、ということですね。

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